広瀬奈々子監督「私は恵まれている環境」  20代のモラトリアム期に自ら見えていたものとは?

是枝裕和監督(『万引き家族』)、西川美和監督(『夢売るふたり』)の愛弟子・広瀬奈々子監督が柳楽優弥主演『夜明け』で長編監督デビュー。広瀬監督のモラトリアム期をベースに描いた本作を観て、20代の筆者が感じたことを聞いてみた。

なぜ数多くある映像の仕事から映画を選び、是枝監督の元へ?

小学生の頃から母親の影響で、映画は観てました。最初はハリウッドの大作を観ていたのですが、だんだんと自分の好きな映画のジャンルもわかっていき、自然と映画に関われる仕事に就きたいと思い始めました。

実は、たまたま偶然で(笑)。大学を卒業して無職時代に友人がSNSで見つけてくれて、「是枝監督が助手を募集しているよ!」と。今となっては、モラトリアム期もあり、頑なに「これ!」と決めずに迷っていたのがよかったのかな、と思っています。違和感に対して、自分に嘘をつかず正直でいられたというのが、今の出会いに通じました。

 

山戸結希監督や酒井麻衣監督など、同世代の女性監督の活躍が増えていることはどう感じますか?

私自身も女性監督ですし、女性監督にチャンスが増えていくことはとてもいいことだと思います。私は必要以上に「女性監督だから」ということは意識していないです。それは、恵まれたことに、是枝組、西川組でも女性のスタッフが多かったからですね。分福(注1)もほぼ女性です。そういう変な意識の仕方をしないで「居て当たり前」の環境がつくれることが大切だと考えています。西川美和監督が(男性社会感が強い業界と)ひしひしと感じてきた世代であり、鎧をたくさん着て闘ってくれた今があるからこそ、私が鎧もなく過ごせる状況なんですね。そこんとこは、本当にありがたいとしか言いようがないです。女性監督がもっと増えていくと現場の空気も変わっていくし、映画に限らず、映像業界全体で垣根が崩れると、雰囲気というのも変わってくるんじゃないでしょうか。

あと、どうしても映画の自負・・・、映画が偉いみたいな旧態依然なものがあるので、これからはテレビやWEBなど関係なく、より良いものをつくっていけるようなシステムの作り方ができるようになるといいです。

私自身も「こういう女性監督になりたい」と思ってもらえるような存在になりたいですね。

 

広瀬監督は、是枝組・西川組で監督助手を務め、修行の時期が7年ほどありました。どういう経緯で監督作を世に送り出すことができたんですか?

これまでも、「(脚本を)書け書け」と言われてました。できたものを見せない限り、チャンスが巡ってこないので、ダメ元でも見てもらうようにしていました。しかし、「物になるね」と言われなかったし、1つに拘って書き続けるものもあったのですが、形にならず・・・。行き詰まっているときに、WEB CMのディレクターの仕事があって、それを観てもらった時に、「キャリアとしても、関係性を見ても、監督としてデビューした方がいい」と言われました。それがきっかけに『夜明け』を書きましたね。自分自身のキャリアのタイミングが来たし、下の世代も後ろに迫ってきていますし(笑)。

みんな努力して、監督になろうとしても叶わない人もたくさんいるのに、「自分が恵まれている」ということに対して卑屈に感じていた時期もあるんです。「それじゃダメだな」と、この環境のチャンスをきちんと活かして、これが普通になっていけるように、他の人にとっても、全体的にも。自分が卑屈になっても、何も意味がないなと気づきました。

作品を拝見し、主人公の気持ちに共感しました。未来への不安があり、将来への保証がない感も伝わりました。

自分の若い頃の感情をベースにしようと思ったので、自分の中の感情が大きかったときはいつだろうと考えてみると、大学卒業直後の頃でした。就職活動をきちんとしていなかったというのもあり、社会とどう関わっていけばいいかわからなく、悩んでいた時期。そして、自分に対しても不甲斐なさもあり、そのモヤモヤした気持ちをベースに描きました。掴もうとしても、掴みどころのないような感覚があって、それが作品全体に空気として流れているかもしれないですね。危機感というか、わかった気になるのが怖いですね。

 

最近、疑似家族をベースにした映画が多いですよね。

そうですね、『万引き家族』もそうですし。フィルメックス(注2)でも、男が男を拾う話、疑似家族の話がすごく多かったんですよ。それこそ、『夜明け』の設定に似た話もありましたし。どこかで、世界が共通した問題意識があるのかと感じています。

 

一番、印象に残ったシーンはありますか?

自分のイメージが思い通りにいったという部分ではないのですが、ラストの夜明けの海に立ち尽くしている柳楽優弥さんの表情には、とても心を動かれました。あの時、カットかけたのに柳楽さんがずっと動かなかったんですよね。「あれ!」と思って、慌ててカメラを担ぎ直して、回り込んで表情を見たら、スゴイ強い意志の強い目をしていて、そこで浮かんだ涙に朝日が写っていたんですよ。それがもう「スゴイな!」と思いまして。「弱さの中にも強さがあるんだな」と。まぁ、後から聞くと、単純に私のカットが聞こえていなかったんですけどね!(笑)。

最後に、映像業界を志す後輩たちへアドバイスをください!

私はすっ飛ばしちゃいましたけど、映像以外でもできる経験はしといた方がいいです。それが、どういう活き方をするかわからないし、映像しかやっていなかった人間にはつくれないものがきっとつくれるはず。映画バカになるのは、もったいないですよね、視野や知識、想像力が狭くなっていきますから。映画の中の世界の住人になると、社会が見えなくなってしまうので、いまの環境の周りのも目を向けれるようになると、創るモノが豊かになると思います。

 

注1)是枝裕和、西川美和ら映画監督を中心に、映像を中心としたものつくりに取り組む人々が集まった共同体

注2)優れた映画を通じた異文化交流を目指し、アジアの創造性に溢れ、多様性豊かな作り手を応援することを目的に、2000年に創設された東京の映画祭

 

広瀬奈々子(ひろせ ななこ)

1987年生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学映像学科卒業。2011年から制作者集団「分福」に所属。是枝裕和監督のもとで監督助手を務める。テレビドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(12)、『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)、『海よりもまだ深く』(16)、『永い言い訳』(16)に参加。『夜明け』が映画監督デビュー作となる。

 

 

『夜明け』

ある日、川辺を歩いていた初老の哲郎は、水際に倒れていた1人の青年を見つける。哲郎の自宅で介抱された青年は自ら「シンイチ」と名乗った。哲郎とシンイチは徐々に心を通わせ、哲郎は自身が経営する木工所でシンイチに技術を教え、周囲もシンイチを受け入れていった。しかし、シンイチは本名を明かすことができないある秘密を抱えており、哲郎もまた決して忘れることができない過去があった。

監督・脚本:広瀬奈々子

柳楽優弥 /  YOUNG DAIS 鈴木常吉 堀内敬子 芹川藍 高木美嘉

清水葉月 竹井亮介 飯田芳 岩崎う大(かもめんたる)/ 小林薫

札幌シネマフロンティアにて2019年1月18日(金)より絶賛公開中

yoake-movie.com

©︎2019「夜明け」製作委員会

writer/photo:anisuke

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